お茶のお道具が増えてきたので、集会室の一部に収納戸棚を作ることにしました。
この建物を設計し、その中に本格的な茶室“涵養庵”を造るときには、茶道のサの字も知らなかったのです。 茶室そのものについては少しは勉強していました。その程度で茶室の間取りを考えましたが、そうするとそれは実際のお点前が出来ないというほどのものでした。致命的ですよね。その指摘を受けてそれを修正し、余った場所を収納としましたが、続けていくうちにだんだんとお道具が増えていくという事を想定ができませんでした。
涵養庵でのお稽古が始まって早いものでもう7年がたちました。今では月に3回涵養庵を使ってお稽古があります。 そういう事なのですが、今度は、月々、その時にふさわしいお道具を考え、そろえるのがちょっとばかり大変になってきました。 なぜか? お道具類が増えて、小さな収納の中の整理がつかなくなってしまい、探すのがちょっとばかり億劫になってしまったからで。お道具が増えたというのは、買い求めたという事ではなく、使ってもらいたいという事でお預かりしているという理由もあります。
ものすごく不思議なのですが、お道具というのは、使うと生き生きとしてくれるのです。すごくしばらくぶりに出されたお茶碗が、それを使ってお点前が始まり、暖めるためにお釜からお湯を注がれ、抹茶を入れる段階になると色合いが変わってくるのです。ですから今あるものを順番に使ってあげたいのです。こういったことは、それを目の当たりにしないと信じられないかもしれません。

集会室は、床の間付きの和室で、畳が九枚敷いてあります。この部屋で、今までで、最大17~8名くらいの会合をしました。コロナが流行り始めた時に、ここならば密を避けてお稽古が出来るのではないか?という事で、ここでやることにしました。 広間のお点前となるので、子供たちに足の運びを教える事が出来るという事もメリットでした。
涵養庵は小間の茶室です。小間というのは特殊です。その上台目畳です。一般的ではないので、涵養庵でお稽古をしている子供たちがここだけのお稽古をしていて、どこか広間のお茶室でのお点前の時に足の運びで恥をかかせたくないと思っていました。
最初はキッチンとの境の襖をあけて入るようにしていましたが、どうにも様にならず、取り外しが出来る間仕切りを作りました。以前にその様子をお伝えしました。今度は、収納を造作した時の報告です。
集会室で収納を作る場所は、建て替える前にあった思い出のサイドボードを、新築の建物内でも置くための場所です。ここにしか作れません。 サイドボードにおいてあるものは、新しい収納の中に納めれば良いし、サイドボードは処分することを考えました。
収納は、和室の雰囲気を壊さないために、建具は引き違い襖です。内矩高さ1800で鴨居を設け、天袋付としました。天井までの高さで開きの扉では、お茶をするという雰囲気を壊してしまうという思いです。また、引違いの方が地震などで中のお道具が飛び出す事が無いというのも大きなメリットです。開きですと中のものが崩れた時、中から押して扉が開き、お道具が床に落ちて壊してしまいます。引違いですとその心配がほとんど無くなります。洋服入れですと天井までの高さのある開きの方が恰好が良いと思っています。それから、引違いの欠点は建具部分が2枚分必要になり奥行きがその分少なくなるということです。
サイドボードの処分を考えたと書きましたが、処分をしないで再使用できました。サイドボードを置ける場所は窓のところしか考えられないのですが、そうすると窓の下部分20㎝くらいかかってしまい、せっかくの障子がその分見えなくなってしまうからです。 その解決方法は、サイドボード゙の足を取ってしまう事でした。それによって高さを18cm下げられました。少しだけ障子に掛りましたが、自分の中では誤差の範囲です。


収納の棚の高さは約30cm毎程度として、すべて均等ではなく、最下部は一段無くしました。それにより、風炉先屏風を収納出来ましたし、押入に入れていた旅箪笥、風炉釜、卓も収納出来ました。押入の中のものを新しい収納に入れられたので、そこにスペースが出来ました。そこに、着物を納めることが出来ました。(この着物は、過去のリフォームなどで処分を頼まれたものです。富津の女性自立支援施設に持って行ったり、涵養庵でお稽古をしている子供たちに着せたりしようとしているものです。)
着物を畳んで入れる箱の横巾は押入の半分よりも広いです。(この着物の箱は着物タンスで使っていたものです。)着物を納めている箱を引き出すときは襖を外さなければならないと考えていました。そして奥行の巾は約45cmです。この時に押入の奥行きが深いことが大きなメリットでした。 奥まで着物を納める箱を入れてしまえば手前に空きが出来ます。この範囲で出し入れすれば襖を外さなくとも済んだのです。


今回の収納一つの増設にしても、どのようすれば最大限の効果を出せるかをじっくりと考えることで、いろいろと出来ました。 ですから、リフォームを考えるときには、それは何のためにするのか? 収納だとすると何を収納するためにするのか? 考えておいてください。 どうすればそれらができるかを考えるのは、それが仕事である業者が考えれば良いのです。考えて、考えて、そして考えて、解決策を提案する。それでも思いつかなければ他の人の知恵を借りて提案する。プロとして絶対に解決策を提案しなくてはならないと思います。
そのようにしてもできない時には、次善の策を提案するのですけれども、要望の80%以上は充足したものでなくてはならないと思います。 まあ、出来ない時にはゴメンナサイ!が簡単なのですが、自分としては負けなので嫌なのです。