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建築現場での面白話_vol.2

きちんと指示する大切さ

今回は、自分自身のことではなく、自分が修行を終え、岡田建設に戻ってきてからの話になります。
ある工務店の親父さんから、その人の息子A君を鍛えてくれないかと頼まれました。 1年以上親父さん自身が大工仕事を教えて、一緒に仕事をしてきたという事でしたが、少し理解力に難点のある青年でした。その青年がしでかしたことです。

  1. ある現場の水盛遣方作業のときでした。
    建物配置の基準点をきめて、そこを基準に矩(直角)を出します。 水平に取り付けた遣方貫(ヤリカタヌキ)の天端に基準を移して、そこを0(ゼロ)として、909毎とか910毎(3尺毎)に墨をつけていきます。
    {※尺貫法の3尺を909mmとするか910mmとするかは設計者によって違います。}
    その3尺毎の印を出すために計測テープのゼロを基準の線に合わせます。 そこで、A君に「ゼロをしっかり見てろよ!」と言いました。「はい!」と良い返事。 そこで、自分は、テープがたるまないように少し引きました。そうすると少し動くのです。 「お前、きちんと見てるのか!」と怒鳴ります。また「はい!」と良い返事。 また少し引きました。動くのです。A君のところに行きました。一所懸命テープのゼロを見ていました。
    言い方が悪いのです。この場合は、「基準の墨とテープの0 (ゼロ)がずれないように押さえて、動かないようにきちんと見ていろよ!」と言わねばならなかったのです。 大反省です。
    {直角の昔の思い出}
    直角を出すのに、貫板を三角にして、3.4.5(ピタゴラスの定理)で2辺を直角にし、その貫板(大矩と呼びます)に水糸を重ね合わせて直角を出しました。自分はトランシットという機械で直角を出しました。水平は、レベルという機械で見ます。古くは水盛菅を使いました。自分も何回か水盛菅を使ったことがあります。水平と垂直をきちんと出すのが現場監督の重要な仕事の一つでした。今は、レーザー光の機械があるので直角も水平も出すのが簡単です。基準となるポイントを指示をしてやると、あとは職人が自分たちで水平垂直を見て工事をやるようになっています。
  2. 同じ現場の同じ水盛遣方作業のときの面白話です。
    さきほど、遣方貫の天端(水平な面)に3尺ごとの印をつけました。その後の作業は、その墨の印を貫板の垂直な面におろします。それを現場では [墨を落とす] と言います。A君に貫板天端の墨の印を指さしながら、「その墨を落としておけよ!」と指示をしました。カンの良い方はもうわかるのではないでしょうか。 そうです。A君は、手に持っていた墨差しをその場でポロっと地面に落としました。 「えっ!」でした。
    この場合の指示の仕方は、「貫天端の墨の印を、指金(サシガネ)の長い方の下側を貫板の天端に置いて、短辺を天端の印にあて、墨差しで、線を引く」と言うべきだったのでしょう。
    ①も②も、A君が1年くらい建築の仕事をやってきているから、知っているものだという誤った思い込みがあったための指示不足の間違いでした。
  3. 上棟も無事終わり、筋交いも取り付けられ、野地板も張られ、間柱も取り付けられて、サッシも準備されました。A君に指示したのは、まだ早いのですが、壁に断熱材を入れる作業です。(この段階ではこれしかできない)こういう時は、彼のきっちりした性格がプラスに働くようです。 断熱材の一枚の長さは約1300mmです。壁の上部に梁があると、その下部分は2500mm程度になることもあります。大工だと重ねて打ち付けます。彼は、メジャーでその長さをきちんと測り、断熱材をその長さに切り、取り付けます。短くなったものも取っておいて、使ってくれました。 見てくれが悪いので、その上からもう一度重ねて張りましたけど。 この話は面白くなかったです。
  4. 次に、壁にプラスターボードを張る時です。
    ボードビスを150mmピッチで打ち込み、ボードを留める作業をやらせようとしました。 充電ドライバーは持っていました。 「そこのボードを柱、間柱に留めろ。ビスの間隔は150mm毎だ。」と指示しました。 「はい!」 彼は床に積んであるボードを1枚持ち上げ、柱に立てかけました。柱と間柱のところにボードを押し当てました。そして、道具袋からメジャーを取り出そうとしました。そうすると立てかけてあったボードは倒れ始めます。 A君はボードを起こします。そして、メジャーを出そうとします。 「いつまでやってんだ!」という言葉を飲み込みました。ボードを仮止めするということが分からないのです。 仮止めを教えました。 今度はその仮止めのビスを基準にして150mmをメジャーで測り、1個打ちました。次もメジャーで150mmを測るというその繰り返しです。 見ると斜めです。間柱から外れています。 自分の指示ミスです。 150mm毎にビスを打つというだけではなく、きちんと柱と間柱にビスを打ち込むように指示すべきなのです。プラスターボードに墨を打ち、150㎜毎の印をつけて、ここに打ち込めと指示しなおしました。

    安全第一イメージ

  5. もう一つA君の武勇伝  工事中の仮店舗を作ります。
    床はアスファルトコンクリートで、その上に仮店舗を建てるというか置きました。屋根はカラー鉄板の波板です。垂木を打ち付け、その上に波板を葺く段階になりました。波板は文字通り谷と山が交互に波打っています。それを垂木に傘釘で留める作業です。ここまで言うことはないかと思いますが、念のために書きます。雨水は波板の谷部分に流れます。彼は、波板の谷に釘を打ちました。しっかりと傘釘の傘が反り返るくらいにしっかりと。 「そこに打つんじゃない!」と怒鳴り、「山の方に打つんだ!」と指示しました。そうしたらば、彼は、山をつぶす位、しっかりと釘を打ち付けました。 釘を抜くのは大変ですし、その波板は再使用できません。もう一枚重ねて波板を並べて、釘を打ちなおしました。 もちろん、こちらがここにこのように釘を打つのだよ!と教えなければならなかったのは言うまでもありません。
  6. 次は、3階建ての鉄骨造の現場での、A君のエピソードです。
    明日が鉄骨建て方の日というときでした。A君に指示して、建て方時に必要な資材を運び入れさせました。それから、現場の整理・片付けを、基礎工事を担当した一人の職人と一緒にやらせていました。 鉄骨を建てる時には、アンカーボルトのナットを外してから柱を建て、建ててから柱が倒れないようにナットを入れて締めるわけです。 自分は、その日の作業の最後に、鉄骨の柱が建つ部分を指さして、A君に「それを取っておけよ」と指示しました。そして、その場を数歩離れたときに、後ろから「うっ!」という力強い声が聞こえました。「なんだ~。何したんだ~?」と後ろを振り向きました。その時、信じられないA君の姿を見ました。 さて、どうしたでしょうか?
    彼は、直径が30mm強で、80cmは鉄筋コンクリートに埋め込まれているアンカーボルトを両手でつかみ、腰を落とし、「うっ!」と渾身の力を込めて抜こうとしていたのです。 その場にいてそれを一部始終見ていた、基礎工事をやった職人の目は、あれが本当に目が点になるというのでしょう。口を半分あけて、目はその様子を見つめていました。全く信じられない様子でしたね。そりゃそうですよね。
    反省点 「アンカーボルトに付いているナットを廻して取っておきなさい」というべきだったのです。自分には、鉄筋コンクリートに埋め込まれた、鉄骨の柱と基礎をつなぐためのアンカーボルトが人力で抜けるはずは100%絶対に無いと思っています。それを抜こうと考える人間もいないと思っていました。彼は、「それを取っておけよ」という指示に対して、それとはアンカーボルトそのものと判断したということです。「廻して」と言わなければならないのは、ナットをむしり取ろうと考えるかもしれないからです。
  7. 同じ現場で各階のスラブコンクリートも打ち終え、各階の間仕切りの墨出し作業です。 2階3階と作業が進み、屋上作業になりました。(屋上の床は地面から9m以上あります。) 墨出しには、水糸を使います。その時は300m巻きの新品を使っていました。 屋上での作業中、A君がその水糸を手から落としました。ポン・ポン・ポンとはずみ、建物の端に転がります。彼はそれを追いかけようとします。まるで自分が3階の屋上にいることを完全に忘れています。 「止まれ!!」と大声をあげ、止めさせました。ぎりぎりでした。 ほ~っとしたとき、今度彼がやったことは、さてどんなことをしたでしょうか?
    彼は、水糸を屋上から手繰り始めました。どんどん足元には手繰った水糸がたまり始めます。「なにやってんだよ~!」 落ちなかっただけでめっけもんだと考えていましたから、他には言葉を発しませんでした。

    反省点  この青年に作業をさせる時の注意のしかたについて、もっときちんと教えなければならなかったということになりますか?しかし、このような子を預かるのは、やめましょう、ということが反省点です。命にかかわります。自分の会社の生命も取られてしまいます。

その後、もう少しの期間、面倒を見ました。
その間の話になります。トラックで現場間の移動のときです。
サイドブレーキをかけたまま、ある現場から20キロほどの離れている現場に資材を運んでいました。その車が到着すると同時にモア~っと煙とゴムが焼けた臭いが立ち込めました。
「なんだこれは?何したんだ!」と言ったところ、彼は「自分じゃありません」と答えましたね。
他に誰がやる?  もう限界でした。
お父さんからも「これ以上迷惑をかけられない」と言われ、ナクナクやめてもらいました。 痛烈に自分の指導力のなさを感じました。

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