「続けざまの改修工事」を先日書きました。 その続編になります。
クリニックの改修工事は極端な話、単なる業者選定の間違いだと思います。 業者の選定で、仕事を誠実にやる業者かどうかの判定ができなかったことによると思いました。(こういう意味での業者判定というのは難しいこととは思います。) 初回打合せでそこを施工した現場の工事中の写真などを収めた写真帳を見た時に、「きれいなアルバムに仕上げているな。」とは思いましたが、その内容については「肝心な場所を写さずに枚数を稼いでいるな。」と思ったものでした。表面上だけの仕事をしてきた業者を選んでしまったという事になるのでしょうか。
基本的に営業施設(物販店や飲食店、事務所)に耐久性は求められていません。特に店舗などは、同じ内装のままでは飽きられてしまうというのもありますし、投下資本の速やかな回収というのが至上命題になりますから、次の改装は早くなるという考え方になります。ようするに、もうかれば早くにグレードを上げて改装するし、もうからなければすぐに見切りをつけて撤退となるようです。自分などは、落ち着いた雰囲気で長く使い込んで、古さではなく時代を感じることができて、そこの持っている独特の雰囲気を持っているというのが好きですけれども、そうすると、初期投資の金額が張ってしまいます。店の営業的には不可という事になりがちです。
住宅の場合、今は新築時に構造の欠陥や雨漏りの補修などに10年の保証(保険を掛ける又は法務局に供託する)が、住宅瑕疵担保法という法律で義務付けられています。 施工業者がいなくなっても、保険で対応してくれます。引き渡してから1年もしないで欠陥が出てくるようなことはないように、10年はなんとかもってくれ!という思いで、ローコスト住宅の建築屋の皆さん方は頑張っています。
そこで、住宅のリフォームについて考えました。今回は、前編のお話の中の、クリニックではない、もう一つの住宅改修工事に関して、ちょっと自分の考えを言わせてもらおうと思います。
工事についてもう一度書きます。
30年くらい前に建てた建物で、全面的な改修工事を依頼されました。
リフォームの要望
- タイル張りの浴室をユニットバスにする。その際浴室暖房・乾燥機を取り付ける。
(タイルの浴室は寒いです。高齢者にとっては命取りです。) - 脱衣洗面室の改修に伴い、ここにも床暖房を施す。
(同じくヒートショック対策です。) - キッチンセットを取り換える。対面式とする
(吊戸棚に入れた品物を取り出せなくなったし、炊事作業中後ろ向きは嫌だ。) - 作り付け収納部を無くして食堂・居間を広くする。
(家具も整理して余裕を持たせたい) - 便所を広くし、手洗い器を取り付ける。
(0.75畳ではなにせ狭い。便器付ではなく手洗い器が欲しい) - 2室ある和室の床の畳を撤去し、板張りとする。その際、床暖房を施す。
(畳に布団では、敷いたり上げたりができなくなってきている。ベッドにする) - 和室の間仕切り部分に作り付けの家具を造作する。テレビ、ピアノ、物入を収める。
(ここに作り付け収納にして、必要最小限のものを置きたい) - 天井裏収納に上がる階段を緩くしたい。
- 照明器具の取替、ビニールクロスの張替、エアコンの取替など・・
このような事柄が今回のご依頼施工内容です。
そして、工事が始まってからの顛末を前回少しだけ書きました。
その続編という形で書くことにしました。 続編というのはおかしいかもしれませんが。
リフォームの目的
リフォームの目的が、ここでは、①から⑧まであります。これらはリフォーム工事の定型みたいなものです。 ほとんどのリフォーム工事の依頼には、これらの工事が含まれたものになっています。 やりたいあるいは必要とする工事の順位とかは人それぞれですから、予算と相談しながら工事項目が決められていきます。
そして、リフォームを施工するというのは、金銭的なだけではなく、心身などにかなりな負担がかかります。その覚悟がいります。そういった覚悟を持ってリフォームをする気持ちになるきっかけにはどのようなものがあるでしょうか。
一つ 子供たちが巣立って、使われない部屋がある。自分たちは年を取ってしまったので、家具などできゅうきゅうとしているのをそこを利用してもっと余裕を持たせたい。 介助者の働きやすいスペースも必要になる。
二つ 30年も前にはバリアフリーなどという考え方は無かったが、現在は必需となった。やはり年齢を考えると、介護などで車いすの使用も考えなければならなくなった。
三つ エアコン、湯沸かし器、お風呂、台所セット、便器などの設備備品が古くなり、使い勝手、効率も悪いので更新したい。
四つ 自分自身、あるいは自分自身とパートナーとの好みがはっきりしてきたので、そういうものを残りの人生の住まいに表現したい。
五つ あと何年以内に東京直下地震だの東海大地震だのが発生する確率が高いと言われているので、耐震性を高めたい
こんなところでしょうか。 一から三は自分自身70歳を過ぎて少し体に自信の無くなった高齢者になったうえでの考えです。もっと若い方々だと、四、五の考えが強いのでしょうか?
この文章を書くきっかけは、今回のリフォーム工事です。
さて、リフォームが思い通りにできました。 工期通りも遅れずに、希望したところはすべて満足できる出来栄えになりました。 めでたし、めでたし。
はたしてそうでしょうか? 天井や壁をはがしてリフォームをしている工事中にその建物の構造材を表しにします。 そうすると、その建物の新築した当時の施工程度がわかります。 自分では考えられないようなオシゴトをしているのが分かりました。何らかの補強をしなければならないと考えました。うちの大工は同じ意見です。
こんな時に、今のほとんどの若い大工さんは、非常に困るのでしょうね。 なぜなら、今の木造建物の構造材は、仕口や継手などの取付部分が、プレカット加工です。現場に持ち込まれた材料を組み立てるだけなのです。
必要が無いので若い大工さんは仕口や継手を加工するという経験を持っていません。当然にそのような加工作業ができないのです。 ですから天井を破ってはじめてわかる、出てきた構造材に瑕疵があるのを見ても、そこの補強工事をすることができないのです。 梁材を取付る加工とか、筋交いを補強するとかの加工ができないのです。 もっとも経験が無いと、その仕事がきちんとしているかどうかもわからないかもしれません。
そうなるとどうするのか?
構造補強をすることができないということになれば、早く天井下地を組んでボードを張り、最初の打合せの通りに内装だけを仕上げることしかできないのです。これを手抜きと言ってはかわいそうな気もします。手抜きというのは当然にやらなければならない仕事を、できるのにやらないこと。その大工にはできないのだから、やらないのは当然な事でしょう。 それで、手抜きと言ってはかわいそうかな?と思っているのです。しかも見てすぐにおかしいとが分かるようなことをしないのを得意としている業者にかかっては、外見からは判断ができません。
それって、お施主様にとってどうなのでしょう?
追加工事が発生しないからお施主様には得なのでしょうか? 自分はお施主様にとって良いことは全く無いと考えます。自分が構造的な瑕疵を見たならば、絶対に補強させます。この先何年もしないで起こると言われている大地震が発生した時に大きな被害が出てしまって取り返しのできない事態になっては、自分としては自分を許せないのです。 ですから、お施主様に補強の必要性を丁寧に説明し、追加工事になってしまいますが、やらせていただくようにします。 自分は、工事を見積もる時にある程度の補強工事は盛り込みます。あくまでも自分の持っている経験の範囲で、「この程度の補強は出るだろうな」という見積もりをします。 そこからものすごく外れてしまうという事になるのは、自分は面白くないのですが、まれには出てきてしまいます。
表面材を剥がして構造を見ることができるようになるリフォーム工事をやる、ここに大きな意味があるのかもしれません。 リフォーム工事の完成後は安心して過ごせるようになる、という心からの安心感を得ることができる。 そこをリフォーム工事の五つ目の目的と考えて頂ければと思います。
ほとんどの補強が終わってから、お施主様が現場に見えられ、一通り現場内を歩いた後、「前よりも、歩いていて、フカフカ感というか、何か違う。」とおっしゃっていただきました。
ずっと住んでいると、そのフカフカ感は当然のこととして、わからないものなのです。